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ひこまるの可愛いナンパブログ

夜遊会 会長ひこまるの夜遊び日記

あらいぐまヒコマル・小説・前編

 

 

 

ボクはあらいぐま。

名前は、まだ無い。

黄土色の体毛をもち、眼のまわりから頬にかけて黒い斑紋がある。

まんまるとした体つきがタヌキとよく間違えられるが、タヌキとの違いとして長いふさふさとした尾には黒い横縞があるのが大きな特徴だ。

大好物は魚だ。

 

 

 

ボクの住む森は自然が豊かで、森の中の澄みきった川には大好物のたくさんの魚がいる。

秋には木の実が生って、その木の実を好む虫や小動物もボクは好きだ。

森の外れには少しだけ人間の民家がある。

 

ボクは人間が嫌いだ。

ボクがまだ幼い時、僕の両親は人間に殺された。

お腹を空かせたボクの為に、人間の住む民家に農作物を取りに行って、そのまま帰ってこなかった。

それからボクはこの森でひとりで生きている。

 

そしてこの物語はあらいぐまのボクと人間の少女のひと時の物語。

 

ボクたちの出会いは数か月前の寒い冬の陽が暮れる前の夕方だった。

ボクはこの時、一週間ろくに食べ物を食べてなかった。

季節は冬になり木の実も枯れて他の虫や動物もいなくなっていた。

川に魚を獲りに行ったがこの一週間で獲れたのはわずか2匹だけ。

今にも死にそうな状態のボクは絶対踏み込まないと決めていた人間の民家に食べ物を盗りに行く事を決意し、フラフラの四本の足で森を抜けた人間の住む場所まで歩いた・・・・・

 

てくてくてく・・・

 

(あぁ、お腹空いた・・・今にも倒れそうだ

森を抜け一つの民家がボクの目の前に飛び込んだ。

周りには他の家はなく草原の真ん中にぽつりと建ってる一軒家。

家の壁は茶色く屋根は赤レンガでできている。窓からは部屋の明かりが見え、煙突からは白い煙が立っている。

(見つけた!人間の住む家だ!)

死を覚悟してボクはその家に近づいた。

家に近づくと、なんとも美味しそうな匂いが漂ってきて空腹なお腹を刺激する。

(中を覗いてみよう・・・)

よろめきながらボクは壁をよじ登り窓から家の中を覗いた。

とりあえず人間の姿は見当たらない。

家の中は広々としていて奥の方には暖炉がありとても暖かそうだ。

部屋の真ん中にテーブルとイスがある。

テーブルの上にはたくさんのパンと今日の夕飯の料理が湯気を立てて並んでいる。

(・・・ジュル)

勝手によだれが出てくる。

(よし・・・裏口から入って盗もう)

 

そんな事を考えてテーブルの上を眺めていたその時・・・

 

「あっ!!タヌキ!!」

(!?)

子供であろう少女の声がした。

(やばい!見つかった!!)

ボクはすぐ壁から飛び降り、森の方へと体を向けた。

家の玄関からさっきの少女の声が聞こえる。

「タヌキ!タヌキー!」

(すぐ逃げないと捕まる!)

ボクは森へ駆け出した。

しかし、この時ボクには走る体力も残ってなく、フラフラの四本足でわずかに残っている力で逃げた。

(ダメだ・・足が前に進まない・・・)

玄関から飛び出してきた少女が追いかけてくる。

「まてータヌキ!」

どんどんボクと少女の距離は縮まっていく・・・

(もうダメだ・・・限界だ・・・)

体力が尽き横に倒れ込んだ。

少女はボクに追いついた。

意識が朦朧として目の前が霞んでいく・・・

「・・・・タヌキ?」

目の前には、ぼやけた少女が覗き込んでいる。

(ボクは・・タヌキじゃない・・・・)

 

視界が真っ暗になりボクは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めるとそこは、さっき覗き込んでいた家の中だった。

部屋の中は思った通り暖かく、美味しそうな匂いが漂っている。

ボクは絨毯の隅で寝ていたみたいだ。

体を動かそうとするも力が入らず動けない。

(あぁ、殺されるのかなぁ・・・)

その時、さっき追いかけてきた少女が目の前に現れた。

 

見た感じ少女はボクに敵意はなさそうだ。

少女は水色のワンピースを着ていて、後ろに束ねた長い髪の毛が何ともじゃまそうだ。

年のころは10歳~12歳くらいだろうか。

その年齢にしては背は高いが、少し痩せているように見える。

少女はボクの方を覗き込んで何か差し出してきた。

「・・・食べる?」

(!?)

これは・・パンだ!

美味しそうなフランスパンだ!!

気づくとボクは少女が持っていたフランスパンに貪りついていた。

「ふふっ、お腹が減っていたのね」

そう言って少女はどこかに行った。

(もぐもぐもぐ・・・あぁ、美味しい)

また少女が戻ってきた。

その手にはたくさんのフランスパンと平たい皿に入った温かそうなミルクを持っていた。

「たくさん食べてね」

少女が笑ってボクに言った。

(これは夢なのかなぁ、人間がボクに食べ物を・・・)

それからボクは無我夢中でフランスパンとミルクを食べた。

食べ終わるまでの間、少女はボクの方を見て、ずっと微笑んでいた。

空腹の状態から一気にお腹いっぱいになったボクは部屋の暖かさと少女の優しさに包まれて、また眠りについた。

 疲れきっていたボクは、そのまま朝まで少女の家で寝た。

 

 

 朝、鳥の声で起きる。

ボクは暖炉の前の絨毯で寝ていた。

(昨日は殺されなくてよかった)

(それにしてもなぜあの人間は死にそうなボクに食べ物を与えてくれたんだろう・・・)

寝起きの体を起こす。

まだ疲労は残っているが、体は動くようになっていた。

部屋の中を見渡すと隅っこの台所の方で昨日助けてくれた少女が朝ごはんを作っていた。

少女はボクの方を振り返り、ボクが起きたことに気づいた。

「あっ、おはようタヌキさん」

台所の方からボクに話しかけてきた。

(・・・だからボクはタヌキじゃない)

「もうすぐ朝ごはんできるから待っててね、タヌキさん」

微笑んで少女が言った。

(朝ごはんまでくれるんだ、なんて優しい人間なんだろう・・・でも)

『・・・ボクはタヌキじゃない!アライグマ!!』

ボクは必死で少女に叫んだ。

鳴き出したボクを見て少女は呆れた顔で

「もう、そんなにキューキュー鳴かないの、もうすぐごはんできるから」

と言った。

そして、少女はまた笑って朝ごはんを作ってくれた。

温かいスープとフランスパンがとても美味しかった。

 

朝ごはんまで人間にご馳走になるなんて思いもしなかった。

ごはんを食べ終えてボクは思った。

(こんなに美味しい食べ物があったんだ・・・でもボクはアライグマ、人間と一緒になんて暮せない。そろそろ森に帰ろう・・・)

そんなことを考えてた時、ごはんを食べ終えた少女が言った。

「ねぇタヌキさん今日から私とここで暮らそう」

(!?)

「私、一人でここに暮らしているの」

(この子まだ子供なのに一人で暮らしているんだ・・・)

「だからタヌキさん今日から私の友達ね!はい決定!」

(え!?そんな事を急に言われても・・・それと・・・)

『何回も言うけどボクはタヌキじゃない!アライグマ!!』

「はいはい、そんなにキューキュー鳴かないの!じゃあ決定ね!」

少女が嬉しそうに言う。

「あっ、自己紹介まだだったね。私の名前は《サクラ》。桜の咲く季節に産まれたから《サクラ》なの!」

(サクラちゃんって名前なんだ・・・)

「タヌキさんは、えっ〜と〜・・・」

(・・・だからアライグマ)

上を向いて何か考えていたサクラちゃんが、ハッと思いついて嬉しそうにボクに向かって言った。

「うん!《ヒコマル》!今日からタヌキさんは《ヒコマル》ね!」

(!?)

『いやだ!その変な名前!いやだいやだいやだ!!』

「あっ!またキューキュー鳴いてる〜あのね、私の住んでた村では男性の首長や貴族を表す威厳のある人の名前に《ヒコ》って入れるの。そしてタヌキさんは見た目まんまるだから《マル》を付けて《ヒコマル》!いい名前でしょ!」

『いやだいやだいやだ!勝手に変な名前決めるな!あとアライグマ!!』

「もう、そんなにキューキュー鳴いてたらまた倒れちゃうよ〜でもごはん食べて元気になったねヒコマル!よし、朝の散歩に行くよヒコマル!」

そう言ってサクラちゃんは家の玄関の方に歩き出した。

『おいっ!ヒコマルって呼ぶな!・・・・・・ちょっと待ってよー!!』

ボクは玄関から外に出たサクラちゃんの後を追いかけた。

 

 

 

それからアライグマのボクと人間のサクラちゃんの共同生活が始まった。

サクラちゃんは少し強引な性格だが、とてもボクに優しくしてくれた。

サクラちゃんの作る料理と毎日食べるフランスパンがボクは大好きになった。

朝は早くからサクラちゃんに無理矢理起こされて朝食を食べ家の周りを散歩する、昼は洗濯や部屋の掃除、あとサクラちゃんは趣味の編み物をよくしていた。夜はサクラちゃんの料理を食べサクラちゃんと一緒のベッドで寝た。

そして時々、ボクを森に連れて行ってくれた。

身体の弱かったサクラちゃんだが、サクラちゃんと森で遊ぶ時間がボクは大好きだった。

ボク達は川でよく遊んだ。

「すご〜いヒコマル!エライねーヒコマル!」

ボクは川でサクラちゃんに魚をよく獲ってあげた。

魚を獲る度にサクラちゃんはボクを褒めてくれた。

『魚ならたくさん獲ってあげる!だからサクラちゃんもたくさん料理作ってボクに食べさせてね!!

「はいはい、ヒコマルそんなにキューキュー鳴かないの!」

よく鳴くボクに《キューキュー鳴かないの》がサクラちゃんの口癖だった。

今まで森でひとりぼっちだったボクは、誰かと一緒に暮らす事がこんなに楽しい事だとは思わなかった。

サクラちゃんもきっとボクと同じ事を思っていたはずだ。

 

 

 

でも、ボクには一つ不思議に思う事があった。

どうしてサクラちゃんはここに一人で住んでいるんだろう?

その理由がわかったのはサクラちゃんと一緒に暮らしだして一ヶ月ほど経ったある日だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらいぐまヒコマル      つづく