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ひこまるの可愛いナンパブログ

夜遊会 会長ひこまるの夜遊び日記

夢で逢えたから・小説・後編

小説

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電車が止まり、最寄り駅のアナウンスに気づいた僕は急いで電車を降りた。

 

 

電車を降りた僕は重くなった足で古びたマンションに帰り、部屋の電気をつける。

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部屋はいつものように散らかっていて今朝出て行った名前も知らない女性の香水の匂いが微かに漂っていた。

スーツとズボンを脱ぎ捨て疲れ切った身体のままベットへ横になる。

ベットの横にある充電器にiPhoneをさす。

枕元の使い古したボロボロの目覚まし時計を起きる時間にセットした。

僕は仰向けになり天井を見つめながらさっき見た写真を思い出していた。

あの修学旅行の一枚の写真。

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笑いあう二人が脳裏に焼き付く。

 

あの頃の幸せだった光景が頭の中の奥の方から沸々と湧いてくる。

 

 

それとは別の場所にいるもう一人の僕は思った。

いつからだろう僕の心がこんなにすり切れたのは?

いつからだろう人を愛せなくなったのは?

いつからだろう生きる意味を見失ったのは?……

 

 

部屋の電気をつけっぱなしのまま、僕の意識がまた遠のいていく……

 

「・・・もう疲れた」

 

一言つぶやき僕はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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また夢を見ている。

 

あの頃の夢だ。

 

今見ている夢は朝見た夢の続きだった。

 

 

朝のホームルームが終わった教室の中

斜め前の席に座っている彼女の姿はだんだんとぼやけていき、そのぼやけていく光景は教室全体に広がった。

 

目の前全体が真っ白くぼやけた後、そのぼやけていた光景が徐々に元に戻っていく。

ふと気づくと辺りは一変し教室の中は秋の真っ赤な夕陽に染まり、僕はその真っ赤な教室の中、一人たたずんでいる。

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今いる場所は放課後の教室だ。

窓の外から見たグランドには野球部の声と合唱部の大地讃頌が響いていた。

この時、僕は彼女に想いを伝えようとして陸上部に所属する彼女の練習が終わるのを一人教室で待っていた。

もう自分の中だけでは抑えきれなくなった想いを早く言いたかった。

 

山の麓の学校全体がより一層真っ赤に染まるころ、陸上部の練習が終わった。

 まだ練習用のユニフォームのままの彼女に駆け寄る。

「今日一緒に帰ろう」

突然僕に言われた彼女は少し驚いて……

「うんいいよ」

とだけ返事をした。

彼女が着替え終わるのを正門の近くにある公衆電話の前で待った。

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肌寒い秋の風が吹く。

この季節特有の虫の音とカラスの声が聞こえてくる。

僕の心は今にも張り裂けそうなくらいドキドキしていた。

どのくらい待っただろう、気づくと目の前に制服に着替えた彼女が立っていた。

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「お待たせ」

とだけ彼女が言い僕も……

「行こう」

と一言だけ言った。

 

学校を出て裏道から彼女の家の方へ二人で歩く。

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彼女に想いを伝えようと思えば思うほど

心臓がドキドキして息が止まりそうになった。

多分、彼女も僕がこの後何を言い出すのかわかっていた。

一本道のねじ曲がった坂を下りながら彼女は僕の半歩前を歩いていた。

その姿はいつもの彼女と違い、『 話しかけないで』、と今にも言いそうなくらいピンとした背筋から僕に伝わった。

無言のまま僕らは歩いた。

 

坂の急な曲がり角を曲がるとそこには町の景色が目に映った。

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上から見下ろした小さな町とその先に広がる大きな海。

沈んでいく夕陽。

肌寒い風。

虫の音とカラスの声。

もうここで言うしかないと思った。

「話したいことがある」

意を決して僕は言った。

「いやだ」

彼女がすぐに言った後、僕の前をさっきよりも早く歩く。

「待ってよ」

慌てて僕は言った。

彼女が僕の前で立ち止まる。

「僕は君が……」

 

 

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その先の言葉を言いかけたその瞬間、彼女が振り返った。

 

振り返った彼女の顔は今まで見たこともない悲しそうな顔で微笑んでいた。

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彼女と沈む夕陽が重なる。

肌寒い風は吹き止み。

虫の音もカラスの声も止んだ。

 

一瞬の間、無音の世界になった。

 

彼女の口が動いている。

 

一言だけ僕に何か言った。

 

言い終わった後、また風が吹き虫が鳴き出し無音の世界は終わった。

 

彼女はまた微笑んでそこから歩き出した。

 

彼女が言った一言が僕には聞こえなかった。

 

想いを伝えられなかった悔しさと今まで見たことない彼女の顔に見とれて……

 

 僕はその場に立ち尽くした………

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朝 目覚まし時計の音で目が覚めた。

部屋の電気をつけっぱなしで寝てたせいなのか全然寝た気がしない。

「最悪だ…………」

昨日見た夢の場面は僕にとってトラウマみたいな出来事だった。

あの出来事から彼女とは気まずくなり、ほとんど話すこともなくなった。

僕はあの時悔しかった。

それは告白できなかった悔しさよりも、あの時彼女が何を考えていて、最後に僕に言った一言がわからなかったからだ。

 

今日もいつも通り、繰り返しの一日が始まる。

疲れ切って固くなった身体を無理やり起こす。

繰り返す先の見えない毎日に、僕は何のために生きているのか?と思いながら、今も夢の中にいる様な感覚のまま洗面所に向かい顔を洗う。

顔を洗い目の前の鏡を見る。

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目の前の鏡に映った僕の顔は僕が知っている僕じゃなかった。

そこに映っていたモノは目は死んで抜け殻みたいなモノだった。

生きている人間じゃないバケモノだ。

バケモノの抜け殻だ。

 

「もう限界だ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はその日、五年間勤めた会社を辞めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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会社を辞めてどれくらい経つだろう?

何もしなくても腹は減る。

僕の日々は家とコンビニの往復になった。

陽に干さなくなったシーツと洗濯していない服にほこりと悲しみが積もる。

伸びきった無精髭とぐしゃぐしゃの髪の毛。

僕は一日中ベットで横になり死んだも同然の生活をしていた。

夜になり今日もまた無駄な一日が終わろうとしている。

仰向けになり天井を見つめる。

貯めていた僅かな貯金も、もうほとんど無い。

昨日と今日は飯もろくに食べてない。

眠たい。

意識が霞んでいく…………

『 もう死のうかな……』

そんなことを思いながら目をとじる。

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 またあの夢だ。

 

夢の中で現在の僕が言葉を吐く。

『この夢は……』

景色は夕陽で真っ赤に染まっている。

『会社を辞める前に見た夢だ』

場所は学校の裏側の坂の曲がり角を曲がった所。

『もういい……』

上から見下ろした小さな町とその先に広がる大きな海。

『もういいよ……』

その海に沈んでいく夕陽。

『もう見たくない……!』

肌寒い秋の風、虫の音とカラスの声。

『やめてくれ!!』

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目の前にはあの時の彼女がいて、悲しそうな顔で微笑んでいる。

あの日見た夢と違うのは僕が中学二年生の僕ではなかった。

 

現在の29歳のバケモノの抜け殻の僕だ。

 

彼女と夕陽が重なる。

 

彼女の口が動く。

 

肌寒い秋の風は吹いている。

 

虫の音も聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「大丈夫だよ」

 

彼女が言った一言が聞こえた。

 

僕はすぐに聞き返した。

 

「大丈夫?」

 

彼女の口がまた動く。

 

「君はこの先何があっても大丈夫だから」

 

そう言って彼女はまた微笑んだ。

 

目の前の景色がぼやけていく………

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目が覚めた。

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目の前には僕の部屋の天井が見えた。

夢の中であの時の彼女が言った言葉は確かに聞こえた。

十五年間僕の心にこびり付いていた泥の様なものが取れていく感じがした。

ぼやけている意識の中、バカバカしくも僕は思った。

もしかしてあの時言った言葉は十五年後の今の僕に言った言葉だったのかな。

 

その瞬間、僕の固くなった身体と心は弾力を取り戻し、身体の中は水で満ち溢れたような感覚になった。

こんなにスッキリとした気持ちで起きるのはいつぶりだろう。

身体を起こしカーテンを開ける。

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カーテンを開けた窓の外には綺麗な朝焼けが僕の目に映った。

「大丈夫・・・」

僕はつぶやいた。

 

二十九年間生き抜いた僕の人生の意味は何だったのだろう?

 

これからの人生に意味はあるのだろうか?

 

僕がもし今日死んでも世界は回る。

数人の友人と家族は悲しむだろう。

しかし世間には僕の代わりはいくらでもいる。

いつも通りの朝がきて社会はいつも通り動く。

悲しいかなそれが現実だ。

 

それでも彼女の夢の中の一言が頭の中で何度も響く。

 

「大丈夫だよ」

 

彼女の言葉が聞こえてしまった今、多分あの夢はもう見ることはないだろう。

 

 

まだ火の着いていない煙草を持ってベランダに出て朝の空気を吸い込んだ。

 

 

 

あの時の彼女に「ありがとう」とつぶやく。

 

 

 

 

 

僕はこの先も生き抜こうと決意して……

 

 

 

 

 

 

 

 

持っていた煙草に火をつけた。

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 夜明けだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、ゲームの始まりだ。

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夢で逢えたから      おわり