読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ひこまるの可愛いナンパブログ

夜遊会 会長ひこまるの夜遊び日記

Rascal~小説・前編~

小説

 

 真っ暗闇のラブホテルの一室、そこは時間の感覚が麻痺する場所

 

ベットの中で裸の彼女を抱きよせてひこまるは言った

 

 

「ねぇラスカルの意味って知ってる?」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Rascal》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは真夏の太陽がアスファルトを射しその熱が地上に残る蒸し暑い夜のこと

 

 

僕はいつものように仲間とクソな酒を飲んで酔いしれ最終的にいつも行き着くBARにいた

 

ここに行けばいつもたくさんの知り合いに会う、顔なじみのマスターもいる

 

クソな酒に呑まれた心を浄化してくれるようなそんな場所

 

 

この日いつもと違うのは新人バーテンダーの女の子が 働いてたこと

 

彼女を初めて見たとき少し心が震えたのをおぼえてる

 

自分よりずっと若いのに見た目は凛として大人の女性そのもの

しかしひとたび笑えば子供のようなあどけなさの残る笑顔がとても魅力的だった

 

その日は朝まで飲んだ

 

飲んでいくうちに一人また一人と家路に帰り夜と朝の境目のころ店に残ってたのは一人の友人と一人のマスターと彼女だった

 

カウンターの隣で友人はマスターとよくわからない外車の話で盛り上がっている

 

僕はその新人の彼女と話した

 

くだらない話や恋愛の話をした

 

酒に酔い話しながらも彼女の姿と立ち振る舞い時々見せるはにかんだ笑顔に心奪われていた

 

それと同時に自分はもしこの子と恋愛をする関係になっても無理だと強く思った

彼女を愛する器もないし愛されることなんて絶対ない

もし仮に愛されてもその気持ちをどのように扱っていいのか全く想像できなかった

そのぐらいこの時はネガティブだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三年間付き合った彼女は言った

 

 

「ひこまるは自分のことしか見てないんだよ三年間付き合ってあなたの心の中が全然見えなかった・・・あなたは他人を幸せにすることなんてできないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この言葉が後からボディーブロー のように効いてくる

 

もう人を愛するのはやめよう

愛されることも

 

この日ときめいた心を押し殺し

僕はあなたに興味はありませんよと素っ気ない態度で振る舞った

 

 

日が昇り家に帰った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一年の月日が経ち彼女は店の看板娘となっていた

一年という月日で彼女はさらに美しく凛とした姿で振る舞い

やはり時折見せる笑顔はあどけなく最高に可愛かった

 

そんな彼女を目当てに連日男性客が店に押し寄せた

たくさんの男が彼女にアプローチした

彼女はそんな男たちの誘いをいつも通りの姿でヒラリヒラリとかわしてた

 

そんな姿も魅力的だった

 

一年間このBARにいつも通り通ったが

僕の彼女に対しての態度は変わらなかった

 

 

 

季節は夏の終わりヒグラシが鳴きだすころ

この街でヒグラシの鳴き声は聞こえないが

日が落ちるのが少しづつ早くなり夜の風が少し冷たくなった

そんなある日、僕はまたいつものBARにいた

 

 めずらしくこの日の客は自分と友人の二人だけ

またクソな酒を飲みいつも通りくだらない話をしていた

 

めずらしく友人は酔いつぶれマスターが介護している

ふとカウンターの向こうに目をやると仕事を一通り終えた彼女と目が合った

 

 

そこから他愛もない話をした

 

 

 

 

 

 

「ひこまるさんってクズなんですか?」

 

彼女が急に不思議そうな顔をして言った

 

「どうして?」

 

僕は苦笑いで聞き返した

 

「だってみんなひこまるさんのことクズって言ってます」

 

また不思議そうな顔で彼女が言う

 

僕は自然と笑みがこぼれた

確かにこの時の僕はクズそのものだった

 

 

三年間付き合った彼女と別れてそれを引きずり

専門学校から社会に放り出され職を転々とし

不透明な明日が毎日不安で金も精神的にもギリギリの状態だった

そんな毎日をクソな酒と女でごまかしながら日々生きていた

 

 

「クズだよ」

 

こみ上げてくる笑いをこらえながら言った

 

「そのクズな話は今度聞かせてあげる」

 

僕は適当に話を流そうとした

 

 

「じゃあそのクズな話今度聞かせてください」

 

少し嬉しそうに彼女は言う

 

「私、半年後には別の仕事に就くのでもうこの街にいません。あと少しの間ひこまるさんのクズな話たくさん聞かせてください」

 

「今度ごはん連れていってくださいLINE交換しましょう」

 

急に言われた言葉に僕は戸惑った

戸惑いながら嬉しさが心の奥の方からこみ上げてくる

こんな気持ちになるのはいつぶりだろう

考えるより感情が僕の先を行く

 

最後に頼んだ酒の氷は溶けて無くなろうとしてる

 

友人はまだ隣で酔いつぶれている

 

 

 

僕はゆっくり携帯を取り出し彼女とLINEを交換した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人生の中で無駄な時間なんてない

誰かが言った

僕のこの頃の時間は無駄そのものだった

短い人生の中で一番時間を無駄にしてた日々

 

 

 

そんな時期に彼女に出会ったのはなぜだろうと僕は今でも時々思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女とLINEを交換してから一ヵ月

彼女から連絡がくることはなかった

また僕から送ることもなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋の風が心地よくまだ夏の暑さがかすかに残る ある日

初めて彼女からLINEが届いた

 

<ひこまるさんこんにちは。そろそろごはん連れてってください。あとクズな話も笑>

 

僕はすぐに返信した

 

彼女の仕事の関係上次の週の平日の夜に食事に行くことになった

 

その日が来るまでの一週間が待ち遠しく

すごくわくわくしたのを覚えてる

 

その思いとは逆に三年間付き合った彼女の言葉が胸に響く

 

 

《もう恋をするのはやめよう》

頭の中でそのことを強く思った

 

 

 

約束の日、空はよく晴れて気温は暑くも寒くもなく

一年間の中で一番すごしやすい日という言葉がぴったり合う

そんな金木犀の香りが漂う秋の夜だった

 

約束の時間の十分前から待ち合わせ場所で彼女は待っていた

この日の彼女はいつものBARで見る姿とは違った

BARで仕事をしている時は細身のスーツだったが

彼女の私服はカジュアルで

まだ新しいであろう白のスニーカーに少し細めのジーンズに薄手の赤のチェックのシャツがよく似合っていた

綺麗というより可愛らしいという印象の方が強かった

 

 

僕らは合流し居酒屋に向かった

 

 

 

 

こじんまりとした居酒屋のカウンターの隣に彼女が座る

店の照明は薄暗くお世辞にもキレイとは言えない店内

目の前では香ばしい匂いを放った焼き鳥が次から次へと焼かれていく

僕らは少しなまぬるいビールでのどを潤した

 

いつもカウンターのむこう側にいる彼女が隣にいる

 

僕は胸の高鳴りを押し殺してまた他愛もない話をはじめた

 

 

彼女との会話は全然飽きなかった

むしろ話してるうちにどんどん引き込まれる

普段話しをする退屈で自分勝手な女とは違い

物事の核心をつくような 知的な会話はとても楽しく充実した

 

その感情とは別に彼女に自分の心の中を見られないようにと 僕は思った

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでそんなに長いこと彼氏がいないの?」

 

三杯目のビールを飲み終わり麦焼酎の水割りを注文したあと僕は言った

 

 

「私のことを好きになるような男性に魅力を感じないの」

 

いままで通りの笑顔で彼女は答えた

 

「なにそれ?そんなんじゃ恋人なんてできないよ」

 

「そうですね。ひこまるさんと一緒です」

 

 

笑いがこみ上げてきた

 

いつもなら押し殺す感情なのに

気づいたら僕は笑ってた

 

 

そこから僕と彼女は笑顔がふえた

 

彼女に気を使って接するのはやめよう

 

この時僕の心の中の壁みたいなものがゆっくり剥がれ落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日から彼女とは毎週のように会うようになった

彼女と行く店はいつもおしゃれとは言えないような居酒屋だった

店の見た目や雰囲気より食材や料理の質を重視する彼女と僕は価値観も似ていた

居酒屋で食べて飲んだ後は必ずBARに行った

BARで働く彼女はBARが好きだった

物知りな彼女は僕によくお酒の話を話をしてくれた

 

 

 

 

カウンターの端に置いてある緑色の瓶の酒を見つめながら彼女は言った

 

パスティスってお酒知ってます?」

 

「知らない」

 

ほろ酔いの彼女の問いに微笑みながら僕は答えた

 

「元はアブサンというお酒があったのですが幻覚など見える毒性の成分が入っていたため百年前に禁酒されたんです。そのアブサンの毒性の成分を抜いて味を真似て作ったのがパスティスです」

 

 

彼女の話にはいつも感心する

そしてそんな彼女の話しを隣で聞くのが僕は大好きだった

 

 

パスティスの意味は・・・」

 

 彼女が少し言葉をためる

 

「意味は?」

 

すぐに僕は聞き返す

 

 

「模倣する。つまり偽物って意味です」

 

僕の目をみつめ笑いながら彼女は言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は今でもBARに行けば最後の一杯にパスティスを飲む

鼻につくような独特の匂いと

歯磨き粉と胡椒を混ぜたような強烈な味が

 

彼女とすごした時間を思い出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Rascal~小説・前編~  おわり